JavaとJavaScriptを混同する人に、名前がかぶってるだけの別モノという指摘がされることもあります。間違いではない。
技術的にも実務的にもコミュニティ的にもそのとおりではあります。
ただ、そう言い続けられた結果、ほんとに単にLiveScriptの名前にJavaをもってきてJavaScriptにしただけという誤解があるようです。
JavaScriptはJavaのScript版、少なくともそうであろうという努力はされていました。
JavaScriptリリース時のCNETの記事には「JavaScript is based on Java」という記述があります。
Netscape and Sun Unveil JavaScript - CNET
実際には、LiveScriptにJavaから文法やライブラリなどを持ち込んでリリースにこぎつけたというのがあります。
JavaScriptのDateはJavaのjava.util.Dateの移植なのですが、「Javaに似せるように」という圧が強すぎて2000年バグまでJavaScriptに持ち込んでしまうということもあったようです。
https://www.mozilla.org/js/language/ICFP-Keynote.ppt
JavaのほうのDateはバージョンアップして日付の扱いとしては妥当に、そして使いにくくなっていったのですけど、JavaScriptのDateはJava 1.0当時のままなので、日本の昔の文化なんだけど日本ではすでに行われてなくてヨーロッパの田舎のお祭りになぜか残ってる、みたいな感じがしていいですね。
当時の状況として、MicrosoftがWindowsでデスクトップ市場を独占していて、脅威に思ったSun、IBM、OracleなどがJavaの下に集まって対抗しようとしていました。合従の策だったわけですね。
そんな中で、MSはインターネットもInternet Explorerで独占する動きを見せ始めていました。初期のIEは機能的にはたいしたことありませんでしたが、当時のMSはOSシェアを利用した独占禁止法ギリギリアウトな手法で司法省に怒られながら市場を奪っていってたので、何か新しい製品を出せば内容に関わらず脅威だったのです。
上記のパワポみると、1994年後半にMSはNetscapeを買収しようとして失敗したようで、IEを使ってNetscapeを潰しにきたのが明らかだったのです*1。 そこで、SunとNetscapeは、ブラウザ上でアプリケーションを立ち上げるための入り口になる、デザイナが書くスクリプトとしてJavaScriptを用意したわけです。プログラマが書くアプリケーションはJava Appletとして作る前提です。
インターネットマガジン1996年11月号の記事でのNetsape+JavaScript+Java Applet と Internet Explorer + Visual Basic + ActiveXの対立構造の扱いはこんな感じ。
https://i.impressrd.jp/files/images/bn/pdf/im199611-210-sp.pdf
ただまあ、CPUクロックが150MHzでメモリが数メガバイトという当時の環境ではJava VMの起動も実行も遅く、Java 1.0ではJarというパッケージングも用意されていなかったので数十のクラスファイルをダウンロードしなければならずそれも144Kbpsで速いほうだった当時のネット接続には重すぎて、Shockwaveのほうが流行りFlashに置き換わり、そしてHTML5にみんな殺されてしまいました。
MicrosoftもWindowsで市場を独占するぜという方針を捨てIEも捨て、ブラウザ非依存のネットサービスでやっていく方針になり、JavaScriptとJavaを連携させてMicrosoftに対抗するぜという機運は人々の記憶から消えたのでありました。
おしまい。
追記
Coders At Workの4章にJavaScript作者であり上記のパワポを作ったブレンダン・アイクの章があって、JS作成時の話が載ってるそうな。
追記2(2022/2/14)
JavaScriptの歴史については「JavaScript: the first 20 years」が面白いとのこと via @tad
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3386327
著者のブログ
JavaScript: The First 20 Years
日本語での解説はこちら
JavaScriptの歴史については「JavaScript: The First 20 Years」を読む | Web Scratch