100年前の小学5年生がひらがなばかりの作文を書くのはおかしいのか

100年前(大正12年)の小学5年生の作文がひらがなばかりなのを見て、幼稚園じゃないんだから漢字かけるだろというのがあったので、当時の漢字教育どんなんだったんだろと調べてみたら面白かった。

まず、文化庁の「国語問題要領」の「国語問題の歴史的展望」を見ると、常用漢字表の発表がちょうど100年前なので、100年前の小学5年生は常用漢字をもとにした漢字教育を受けてないことがわかる。ちなみに、この常用漢字関東大震災のため実施できなかった。

明治35年(1902)文部省に国語調査委員会を設けて,この問題の解決に着手した。さらに大正10年(1921)には臨時国語調査会を設け,12年(1923)に常用漢字表,14年(1925)に仮名遣改定案を発表した。
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kakuki/01/tosin01/03.html

なので、あまり漢字の学習できてないのではと書いてたら、「明治の教科書にも漢字があったのだから、大正12年の小学生は読み書きできたはず」という指摘を教科書アーカイブのリンク付きでもらった。

で「明治19年5月「教科用図書検定条例」以降の教科書検定制度による教科書」を確認してみる。
https://www.nier.go.jp/library/textbooks/K120.html

こんな感じ。これは尋常小学校用国語読本の巻8
https://nieropac.nier.go.jp/lib/database/KINDAI/EG00013529/?lang=0&mode=1&opkey=R169339370269797&idx=16&codeno=&fc_val=

文体がいろいろあって面白い。

確かに漢字がたくさんあるのだけど、無遠慮に漢字がのっていて、逆に「これほんとに読み書きできたのか?」という疑問。漢字をまとめたところもないので、これで漢字を覚えれるようにも思えない。

読めるからと言って書けるわけではない、というの、最近手書きをやってないぼくたち体験してるはず。

では別の教科書にあるかもと「書き方手本」を見る
https://nieropac.nier.go.jp/lib/database/KINDAI/EG00011665/?lang=0&mode=1&opkey=R169339432145629&idx=9&codeno=&fc_val=

こんな感じで、固有名詞が多いので、体系的に漢字を学習できていたようには見えないので、日常の文で漢字があまり使えず、ところどころ使えるものを使うという感じになってたのも無理はないなと思った。

で、先ほどの「国語問題の歴史的展望」に漢字廃止論が出てくることを思い出す。

慶応2年(1866)に前島密(ひそか)が建白した漢字御廃止之(の)議が最初であり,これが動機となってローマ字論やかな専用論が現れ,明治16年(1883)にはかなのくわいが作られた。

漢字難しすぎて学習の妨げになっているので廃止しようという話。明治の教科書で漢字が使いまくられてるの見ると、確かにそういう気持ちになるのわかる。

そして、廃止は難しいので節減論が出る。

現実の問題として実行が困難であるという理由から,別に漢字節減論が現れたのも明治初期のことである

それで常用漢字表の策定につながったと考えると、明治の教科書に漢字がたくさん載っているからといって、漢字を習得できたとは言い難いという気持ちになった。

そんなところで「カタカナばかりになるんでは?」という指摘があったので調べると、大正10年(1921年)の教科書では小1ではカタカナのみ、小2からひらがなと漢字が出てくるらしい。

大正10年の小学生が使用していた教科書は『尋常小学国語読本』。
巻一・二(小学1年生):カタカナのみ
巻三~十二(小学2~6年生):カタカナ、ひらがな、漢字
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000199346

ということで尋常小学国語読本の巻1を見るとカタカナばかり。

https://nieropac.nier.go.jp/lib/database/KINDAI/EG00013522/?lang=0&mode=1&opkey=R169339499044208&idx=9&codeno=&fc_val=

つまり、ひらがなというのは上級生が習うものということなので、小学5年生でひらがなばかりの文が書けるというのは、当時としては学習が進んでる扱いだった可能性がある。

ということで、100年前の小学5年生がひらがなばかりの作文を書くというのはおかしいというのは難しそう。

あと、「この時期には書き言葉と話し言葉が違ったはず」という指摘もあったけど、書き言葉と話し言葉を一致させる言文一致運動はすでに確立していたらしく、話し言葉で書かれていても不思議ではないです。

1900~10年の言文一致会の活動によって,運動は一応の確立をみた。
https://kotobank.jp/word/%E8%A8%80%E6%96%87%E4%B8%80%E8%87%B4%E9%81%8B%E5%8B%95-61054

この本、結構この内容がまとまってそうなので読んでみる。