日本のSIerの技術力の低さの要因から考えるアメリカソフトウェアの強さ

この連休はなんだかSIerについて考えることが多かったのですが、そういうことを考えると、なぜアメリカのソフトウェアが強いのかがわかってきた気がします。

まず、もちろんSIerの技術力が低いといっても技術力が高いSIerもいるわけで、とくにこのブログを見てる人だと技術力の高い側にいる人が多いと思います。

けれども、DX白書2023によればSIerのIT人材というのは75万人いて、技術力の高い人はその一部で、多くは技術力の低い側にいるんじゃないでしょうか。

https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108046.pdf

2014年、ちょうど10年前に、プログラマSIerと自社サービスで2分化するんではないかというブログを書いていますが、そのまま現実になった形です。
プログラマ業界の二分化 - きしだのHatena

SIerの技術力が低い要因がその多重下請けという産業構造にあるのであれば、多くが技術力が低い側にいると考えられます。

多重下請け構造において、実際にコーディングを行うのは末端のエンジニアです。
三次請け、四次請けのエンジニアが二次請けの開発現場に送り込まれます。彼らが主に開発を担当するのは細分化されたモジュールや一機能の部品単位の案件が中心です。そのため、スキルアップがしづらく優秀なエンジニアが育ちにくいことが指摘されています。
また、多重下請け構造によって、末端のエンジニアが所属する会社への報酬も微々たる額になるため給与も上がりにくく、結果的に低待遇・低スキルの環境から抜け出せない点も課題です。
一方で一次請け、二次請けのエンジニアは管理業務が中心になるため、スキルのアップデートがしにくいことから、あらゆるレイヤーで業務を通じた技術力の向上が見込みにくい状況が起きやすくなります。
今こそ見直したい多重下請け構造—DXで内製化シフトは実現するか

そして、日本のIT人材の75%が従事するSI業界で技術力が低いことは、日本のソフトウェア産業の弱さにつながります。

ところで、2020年の経済財政報告に次のような図があります。

https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je20/h07_hz040210.html

日本ではIT人材はIT産業に集中していて、IT産業以外にはあまりいない、つまり日本では海外に比べてITシステムの内製化がかなり遅れているという説明がされます。この図でみると、アメリカでは多くが内製ということになりますね。

けど、アメリカのような英語圏ではオフショア外注の障壁がゆるく、単に国外に出しているんではないかということも考えられます。

実際、インドのバンガロールあたりは、90年代にアメリカのオフショア拠点として発展がはじまり、いまの「世界のIT拠点」という地位まで成長しています。そのとき、人件費の安いインドとの競争からアメリカ国内でのIT受託が立ち行かなくなったことも、Webサービス企業の成長につながったという話があります。

IT人材の数を見てみると、インドと中国がほぼ同数です。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001486.000005089.html
(日本のIT人材がこちらでは144万人になってますが、どうやら年15万人ずつくらいふえてるようです)

インドの中国は、どちらも人口が14億人で、それだけを考えれば同数のIT人材がいても不思議ではないのですが、AlibabaやTencentなどがありIT利用が進んでる中国と現状のインドを比べると、インド国内でのIT需要は供給を吸収できているとは思えません。

雑にインドのITエンジニアの150万人くらいはアメリカの仕事をしてるんじゃないかと思います。

先ほどの従事産業比率でいえば、アメリカは150万人がIT産業、300万人が非IT産業にいることになりますが、ここにインドの150万人をIT産業に組み入れれば、アメリカ国内のITのために作業するIT人材はIT/非ITで半々くらいになり、フランスやイギリスと同水準になります。

そうすると、アメリカのソフトウェアを開発している人は600万人ということになり、「なぜアメリカのソフトウェアは強いのか」の答えのひとつが「日本の4倍のIT人材がかかわってるから」であり、ではなぜアメリカ国内でもIT人材が増えたかというと、設計をそのままコードに置き換えればいいような付加価値の低い部分はアメリカの国外にだして、アメリカ国内では高付加価値のソフトウェアに集中した結果「稼げる産業」になったからというのがあるんではないかと思います。

※追記 SIerでの大半を占めていると思われる多重下請けの構造の話を書きました
多重下請けでは構造的にいいソフトウェアが作れない - きしだのHatena