ヘッドフォンを常用してる人で雑音の中で会話が聞き分けづらいのは難聴の可能性

Twitterで、「会話のときに周りに雑音があると聞き取れない」という発言があって、ヘッドフォンを長いこと常用しているということなので、難聴の可能性があるので耳鼻科で診てもらうよう勧めました。
同様に、ヘッドフォン(イヤフォンでも)を常用していて、なんとなく雑踏のなかで会話が聞き取りづらいという人で、実は難聴になっているという人がいるんじゃないかと思ったので、ちょっとまとめておきます。
たとえば、ニュースのアナウンサーの声は聞きとれるのに、バラエティで笑い声が入ったりすると聞き取りにくいという場合には要注意です。
心当たりがある人はヘッドフォンの利用の見直しと耳鼻科での検診を勧めます。

ヘッドフォンを常用すると高音難聴になりやすい

ヘッドフォン難聴という言葉は有名になってきましたが、スピーカーで音楽を聴くのとヘッドフォンで音楽を聴くのとの違いは、鼓膜にとどくまでに高音が減衰しないということです。空気を音が伝わるとき、高音ほど減衰しやすいわけですが、ヘッドフォンの場合は減衰する距離が短いので、出力されたままで鼓膜に伝わりやすいのです。
そのため、ヘッドフォンで音楽を聴いた場合に4kHzを中心とした聴力低下が起こりやすいようです。
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また、この等ラウドネス曲線(同じ大きさの音に聞こえる音量のグラフ)をみると、4kHz付近はもともと一番敏感な帯域であることがわかります。一番敏感な帯域が最初にダメージを受けるともいえます。
等ラウドネス曲線 - Wikipedia
青い線をみると、100Hzでの50dbの音と、4kHzでの30dbの音とが同じ大きさに聴こえることがわかります。

単独の会話に問題なくても識別が難しくなる

たとえば、固定電話では、伝送帯域の上限は3.4kHzです。これで会話がなりたつということは、歴史も証明しているとおりで、4kHzより高域が聞こえなくても会話はできます。
では、4kHz以上は不要なのかというと、そんなことはなく、むしろ重要だから一番敏感になっているわけです。
4kHz付近というのは、音がどこから来るかという定位と、複数の音がなっているときの識別を行うために大切な帯域です。オーディオに凝ったことがある人ならわかると思いますが、4kHz以上を専門として出すツイーターを追加すると、音の定位がよくなり、歌や楽器の識別がしやすくなります。


逆に言えば、4kHzが聴こえなければ、音がどこから鳴っているかわかりにくくなり、識別が難しくなるということです。
つまり、4kHzが聴こえないと、静かなところでの1対1の会話には問題がないけど、雑音の中や複数がしゃべると聞き取りづらいということになります。

一度ダメージをうけた耳は回復しない

ここで、耳のしくみを見ておきます。


耳というのは、耳介で音を集め、外耳道を通して鼓膜に伝え、鼓膜で空気の振動を機械振動に変換し、耳小骨とよばれるつち骨・きぬた骨・あぶみ骨という3つの骨で増幅して、蝸牛で機械振動を電気振動に変換し、神経でその電気信号を脳につたえ、脳で情報処理するという過程をたどって聴こえています。
ちなみに、外耳道(耳のあな)の共振周波数は3.5kHz付近で、3kHzから5kHzの帯域が鼓膜時点で10db程度増幅されるようで、このことも4kHz付近の感度が高いことに関係しているようです。


ここで、音の周波数分解は、蝸牛で行われることがわかっています。蝸牛はうずまき型をしていて、内部には有毛細胞が並んでいます。そして、有毛細胞は、入り口に近い側で高い音、遠い側で低い音に対応して振動を電気に変えます。
この有毛細胞が、音楽を聴くことでダメージを受けるわけです。そして、有毛細胞は、突発的な小さなダメージなら回復できますが、持続的なダメージを受けた場合には再生しません。


有毛細胞が再生しない理由は、こちらが詳しいです。
誰も興味がないだろうけど耳鳴りの話 - portal shit!
有毛細胞が再生しないのはP53遺伝子の働きのせいで、P53遺伝子は癌化をおさえる働きもするので、P53遺伝子の働きを抑えれば有毛細胞を復活するだろうけど、耳の癌もできてしまう、ということのようです。

耳をいたわるヘッドフォンの使い方

ということで、耳が受けたダメージは回復しないので、対策としては悪化をふせぐということになります。
音楽による耳へのダメージというのは、単純に言えば音楽を聴く時間と音量の掛け算で決まります。なので、ダメージを減らそうと思ったら、音楽を聴く時間を減らして、音量を下げることが大切です。
一番は「音楽を聴かない」というのが耳には一番いいのですけど、そういうわけにはいかないと思うので、音楽を聴くときの注意をまとめてみます。


まず、一番やってはいけないのは、騒音を消すために音楽を聴くという聴き方です。騒音より大きい音で騒音を隠しても、エネルギーが消えるわけではありません。脳が聴こえていると思わなくても、音のエネルギーは耳に届いています。
騒音を消したいのであれば、カナル型のイヤホンやノイズキャンセル機能のように、耳に装着するだけで音楽を流さなくても騒音が少なくなる環境をつくって、その上で音楽を流すようにしたほうがよいです。その場合、片方をはずしたときに周りの音と音楽が同じくらいの音量になる程度にしましょう。


また、音楽を聴く時間を減らすという意味では、作業中ずっとヘッドフォンで音楽を聴くというのは避けたほうがいいです。できればスピーカーで。
ヘッドフォンで聴くのであれば、まわりの音が聴こえる程度の音量で聴くようにして、一日に何度かは音楽を聴かない時間をとるようにしましょう。作業場での騒音を消すのが目的であれば、上記のような騒音低減の上で小音量で音楽を流すようにしてください。


ヘッドフォンは、周波数特性わるいと、特性だすために音量を上げがちになるようです。たとえば低音を出すためとか。もちろんそうすると高音も一緒に持ち上がるので、ダメージが大きくなります。特性のいいヘッドフォンで小さい音で聴くのが耳にやさしいようです。

まとめ

耳は繊細で大切なので、いたわってあげてください。
また、難聴の現象が自覚できる場合は、単なる音楽によるダメージのせいではなく、感染症などが原因の可能性もあります。そのような場合、一日単位で症状がとりかえしのつかない方向に進行するようです。耳鼻科での速やかな検診をおすすめします


難聴の本は知らないので、ここで挙げたような、音について全般を扱った本をあげておきます。音について、耳について知ることも、難聴対策のひとつだと思います。

図解入門よくわかる最新音響の基本と応用 (How‐nual Visual Guide Book)

図解入門よくわかる最新音響の基本と応用 (How‐nual Visual Guide Book)


耳の特性などについては、この本を参考にしました。

聴覚と音響心理 音響工学講座 (6)

聴覚と音響心理 音響工学講座 (6)

蝸牛の音響特性や電気特性、聴覚の心理特性など、聴覚に関すること全般がかなり詳しく書いてあります。